PROJECT DATA
種別 | 家起こしによる軸組補正、古民家改修フルリノベーション | |
用途 | 店舗 | |
場所 | 京都府宇治市 中宇治地区 | |
構造 | 木造2階建 | |
面積 | 87.4㎡(客席39席) | |
設計 | 2023/1~2023/6 | |
工事 | 2023/1~2023/7 | |
施工 | 有限会社曳家岡本(家起こし)、株式会社石田工務店 |
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PROJECT STORY
解体やむなしとされていた昭和初期築の傾いた木造2階建町家を家起こしで骨格から矯正し、カフェとして再生した案件。同じ敷地内で先行オープンした「離れ」カフェとは砂利敷きの路地を挟んだところに位置し、重心の低さと落ち着きを重視した「離れ」とはテイストを変え、内装や家具の選択も軽くポップな感じでまとめた。建物正面の腰壁にはお客様の従業員様とのDIYでタイルの乱張りを施工し、建物への愛着醸成を図った。
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解体やむなしの古民家をどう再生するか
工事前の建物は、地面から2階柱上部の高さに対し、水平方向で130ミリの傾きがあり、お隣の建物にもたれかかる寸前の状態になっていた。
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また、建物内部に関しても2階の床が部屋の中央で隆起する箇所があるなど、室内に出入りするだけで危険を感じるところもあり、再生不能・解体やむなしというのが、クライアントが事前に相談した工務店や他の建築士の見解だった。
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ご相談を受け、クライアントの建物への思い入れの有無、ならびに新規事業のスケジュールを考慮した結果、「解体・新築」より早く、かつ安く、プロジェクトを遂行する方法として曳家職人による家起こしを用いた「建物再生」を提案した。
「解体・新築」の場合、新築建物の設計と確認申請手続きなど、工事に取り掛かるまでの時間を要するが、一旦工事が始まれば進み具合は速い。一方の「家起こし・再生」の場合、工事を始めてみないとわからない既往の問題個所に逐一対応しなければならず進行速度は遅いものの、手続きが少なく、すぐに工事に取りかかれるというメリットがある。
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本件については、工事と設計を同時に進めることで「解体・新築」より「家起こし・再生」の方が短期間で完成にたどり着けると判断した。ただし、これには職方の手を止めることがないよう、工事進捗の逐一確認、問題個所への瞬時対応、即座の図面作成など、素早い意思決定と高度な技術力が求められた。
曳家専門職との協働体制で建物の再生に取り組む
建物が大きく傾いていた原因は、隣家に接する壁を構成する土塗り真壁の柱脚部が壊滅的に腐食していたことだった。また、長年の雨漏りと雨仕舞の不備により、柱と梁が取り合うあう部分(仕口)が随所で著しく腐食・損傷していたことも原因であった。
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このような状況を受け、建物を地面から持ち上げて動かすことを専門とする曳家職人との協働体制を敷くことにした。高知と千葉を拠点に全国で活躍する有限会社曳家岡本の力を借り、建物全体を一旦地面から浮かし、腐っていた柱の足もとをすべて切断するとともに、建物の垂直方向を矯正する「家起こし」を行った。
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本件の建物は建築基準法制定前に建てられた町家であり、土台がない石場建て。法制定後の昭和25年以降の建物であれば土台から持ち上げることができるが、石場建の建物を浮かすには柱を一本ずつ掴んでジャッキで持ち上げる必要があった。また、一部の仕口の腐食が著しかったため場所によっては屋根を支える2階の梁自体を持ち上げなければならず、枕木を6メートル積み上げたタワー状の支えも必要になった。
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建物を地面から浮かした状態にし、まずは建物の垂直方向を矯正する家起こしを行った。家起こしは珍しい工事とされているが、その理由は力のかけ具合によっては柱などの構造部材を折損してしまう、つまり建物を破壊・崩壊させるリスクが付きまとうからである。工事は細心の注意を払いつつ進んだ。
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家起こしを進めると同時に、柱足もとの腐食部切除、傷んだ仕口の補修、必要な柱の追加、基礎の再整備を行った。これらは建物全体を浮かした状態だからこそ容易にできる作業であり、建物を浮かさずにこれほどまでの抜本的な補修工事は不可能である。柱、梁、仕口など、腐食部分にはすべて手を加えた。
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工事開始から2か月で建物を浮かしての構造部材の矯正・補修が完了した。その後、耐震性を高めるための耐力壁の設置、内外装工事といった一般的な改築工事へと歩みを進めた。
DIYベースのタイル貼りで建物に彩り
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改修工事の仕上げとして、クライアントの従業員有志と本件の大工2名とともにDIYベースで建物正面腰壁のタイル貼りを行った。ご厚意により、タイル工場の生産工程とタイル商社の流通過程で廃棄されることとなったタイルを譲り受け、DIYベースでの施工とした。
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関係者に建物づくりのプロセスに参加していただく機会を設けつつ、完成した建物に彩りを添えた。
関連リンク
抹茶ロースタリー®(公式インスタグラム)
曳家職人が家起こしで古民家再生(動画|うじテレビ|協力UDCU(一社・アーバンデザインセンター宇治))
抹茶ロースタリーグランドオープン(動画|うじテレビ)
本ページ内の写真提供
抹茶ロースタリー®(完成写真の一部)、有限会社曳家岡本(家起こし関連)、株式会社石田工務店(タイル貼りDIY関連)